歩海と親戚のお姉さまとのいちゃいちゃ模様。前編は練習風景、後編はえろえろ。
本編では二年目体育祭編と合宿編の間くらいになる……かな。多少食い違いなどあるかも知れませんがそのへんはご愛嬌。
かちゃり、とベルトを外す音がする。僕の片足をソファに上げさせて、妃紗生さんはその間に座った。唇を合わせたまま、ファスナを下げ、下着の中に指先を滑り込ませる。裏側を撫で上げ、先端に触れる。
「かわいい」
クスリと笑った。僕が顫えたのがわかったのだろう。片手を引いて、スカートの中へ導いた。滑らかなナイロンの感触は途中で終わって、少し汗ばんだ膚に触れた。すぐに別の布地の感触へと辿り着く。境目に指を這わせてみると、やがて小さな結び目を見つけた。とろけかけた意識で弄んでいると、妃紗生さんはその手を払いのけた。
「だめ。いけない子ぉやね」
それから、僕の下着を腿まで下ろさせると、床に膝を突いて唇を寄せた。
「ひさ……」
僕は目を逸らし片手で口を覆った。ひたりと張り付いた舌が生き物のように這い上がり、弾力のある唇が先を包んだ。右手は下で膨らみを弄び、左手で少し強すぎるくらいに扱かれながら吸い上げられると、思わずうめき声が漏れた。
「気もち良いん?」
甘えるような声で問いかけられる。
「もっと気持ちようしてあげる」
左手は握ったまま、妃紗生さんは右手の指を舐めてもっと下――うしろに押し当てた。
「なに――」
そのままするりと忍び込む。意外にすんなりとそれは奥まで進み、確かめるように内部を刺激する。戸惑いながら、僕は拒まなかった。探りながら、妃紗生さんは先端になん度も唇を押し当てた。
ついに指がそこを探り当てた。反応の変化を感じたのだろう。妃紗生さんは満足そうに笑った。
「ここが良いの?」
乱暴に押されて、全身に電気が走った。
「男の子がここが気もちええって、ほんとなんやねえ」
間断なく刺激されて急に浮き上がるような、それでいてどこまでも落ちていきそうな、激しい感覚に襲われる。まぶたの裏が明滅する。仰のいた目尻から一筋、涙が伝った。
「ああ、も――」
「うん。いかせてあげる」
そこをいじり続けながら、咽の奥まで呑み込まれて、僕は呆気なく達した。
ひじ掛けに頭を預けて荒い息をついている僕を置いて、妃紗生さんはどこかへ行ってきたようだ。多分バスルームだろう。目を開けたら、真上に逆様になった妃紗生さんの顔が見えた。妃紗生さんは屈みこんで僕の頭を抱いた。頭のてっぺんのあたりに、柔らかな膨らみが触れた。
「だめや、やっぱり我慢できひんわあ」
片手を伸ばして、僕の胸をちりちりと刺激する。それが指先に挟んだ薄い小袋だとわかって、僕は呆れた。
「用意してきたの?」
「だってえ、あゆちゃんと会うたらうち襲ってしまうやん」
意味がわからない。いやわかるけど。
「ねえー、ええでしょう?」
「まって、まってよ」
本当にそのまま襲われてしまいそうだったので、僕は慌てて怠いからだを起こした。妃紗生さんは不満げにじっとこちらをにらんだ。額に張り付いた髪をはらって僕は言った。
「上行こう。僕の部屋」
ぱっと妃紗生さんの顔が明らんだ。ここまでされて拒めるか。僕だって男だ。
とはいえ、リビングでそのままというのは憚られた。どう考えたってあとに残る罪悪感が大きすぎる。下着とズボンだけ直してシャツは全開のまま、ふらふらと階段を上った。妃紗生さんは後ろでくすくす笑っていた。
部屋に入るなり妃紗生さんは僕をベッドに押し倒してキスした。それからおもむろに起き上がって、
「脱いで」
言われるまま、僕はシャツから腕を抜きズボンを脱ぎ捨てた。下着はつけたまま——すでにばっちり見られていると言っても、やっぱり気恥ずかしい。妃紗生さんはその一挙手一投足を舐めるように見ていて、満足そうに笑うと自分も立ってカーディガンを脱ぎ、ワンピースの肩を外した。切り替えのないワンピースはするりと肌の上を滑り落ちて、床にクリームイエローの輪をつくった。つややかな黒髪がくっきりとシルエットを描き出す。細い綺麗な脚が腿までのストッキングに包まれて、パステルピンクの下着が申し訳程度に胸の膨らみと真っ白なお腹の下を隠していた。ショーツの腰骨のあたりに結び目があって、さっきの指先の感触を思い出して僕は少し赤面した。
「ブラジャー脱がせて」
僕の膝にまたがって見下ろしながら妃紗生さんは言った。抱くように両手を腰から背中へ回して、僕は命令どおりブラジャーのホックを探った。一度失敗してホックは外れた。
「あせらんで」
クスリと笑う。肩紐と一緒に腕をなで下ろすと、不意にブラジャーを投げ捨てて言った。
「舐めて」
両手で僕の頭を包み込むようにしながら乳房を差し出した。甘酸っぱい香りが鼻腔を満たす。鮮やかな薄紅色の中心を口に含み、舌を押し当てる。妃紗生さんは片手を離して自分のもう一つの乳房を揉んだ。左手でからだを支えながら、僕は右手を妃紗生さんの太股に這わせた。滑らかなストッキング、その上の、ひたひたと汗ばんだ膚。舌の上のものを強く吸うと、妃紗子さんは絶え入るように、声にならない呻きを上げた。あの結び目に触れ、きっとまだいけないのだろうと思って布と膚との境を弄る。斜めに開いた腿の間をそっと撫でると、そこはしっとりと水気を含んでいた。ゆっくりと指の腹を押し当てる。ゼリーのように逃げようとするのを押さえつけ、小さく円を描く。妃紗生さんの息遣いが変わる。腰を揺らし、自分から僕の指を感じようとしている。
「あゆちゃん」
吐息に似た声で僕を呼ぶ。
「脱がせて」
結び目を片方ずつ解いた。一枚の奇妙な形をした布に戻ったショーツをするりと外した。妃紗生さんは乳房を引き、僕の肩に両手を突いて唇にキスしながら、腰を落として僕の下着にこすりつけ、激しく揺すった。布一枚はさんで触れ合っている。舌が蛇のように絡み合い、粘り気のある唾液がこぼれて顎を濡らした。
「これだけでいきそう」
大きく吐息をつきながら妃紗生さんが言う。
「僕も」
「だーめ」
返したら、咎めるように言って妃紗生さんは動きをやめた。もう一度唇を重ねて、それから頸筋、鎖骨、胸とキスを落とす。乳首をついばむように吸われてぞくりとした。臍を舐めて、下着をずり下ろす。すっかり回復して濡れているそこを、妃紗生さんはソフトクリームみたいに舐め上げる。僕は歯を食いしばって耐えた。ずっと指に挟んでいた小袋を破って、ゴムを器用にかぶせた。
「見ててね」
位置を合わせて、ゆっくりと呑み込んでいく。内側がきゅっとすぼまって温かな襞にぴったりと覆われる。それだけでもう頭がくらくらする。妃紗生さんの唇がもちあがる。
「気もちええのん? もうちょっと我慢して」
そっと僕の肩を押した。ベッドに倒れる。妃紗生さんは少し屈みこむように、僕の両手をにぎった。
「勝手にいったらいかんよ」
はじめはゆっくりと、段々激しく腰を揺らす。前のところをこすり合わせるみたいに。
「あ、ひさ……」
「だめ。まだ我慢」
「そん、な、あ」
妃紗生さんは恍惚とした表情を浮かべ、ひたすら動きを繰り返した。一番良い場所を探っているようでもあった。喘ぎのテンポが上がっていき、調子も激しくなっていった。
「ああ、お願い……」
「もうちょっと」
「や、もうだ、めえ」
限界だった。意識を手放しかけたとき、あゆちゃん、と妃紗生さんが呼んだ。両手をぎゅっと握りしめた。
「ええよ、一緒に」
その言葉を待つまでもなく、全身がしびれるような快感が襲った。痙攣する妃紗生さんの中で、僕も一緒に果てた。
カデンツァまで弾き切ったら、こんな感じだろうか。
「ねえあゆちゃん」
ぼうっとして寝ころんでいた僕の胸を撫でながら妃紗生さんがいう。
「先の話やけど、コンクールが終わったら二人でソナタやらん?」
「……ソナタ? どこで?」
「どこでもええよ。そや。リサイタルにゲストで呼んだげる」
「そんなことできるの?」
「なんでもできるよ。共催しよ。そしたら安く上がるし。時期は……全国終わったら招待演奏会あるよね。そのあと、やから来年の二月くらいやろか」
「……入賞者は、でしょ。それに全国なんて」
「行く気でやらんとあかんよ」
急に口調がきつくなる。仰有るとおり。でも自信なんてあるわけない。だから話を逸らす。
「なんでソナタなの?」
「だって、うちら相性ええやん。協奏曲の伴奏だけやってたら欲求不満になってまうわ。うちともっとやりたない?」
その言い方は二重にとれるぞ。
「演奏は、したいけどね」
「なんよそれ……そか。エッチだけならいつでもできるもんね」
まいるよ。
「せやせや、今度はうちに遊びにきて。もっとすごいことしてあげる」
「遠慮します」
「遠慮はご無用」
「京都の流儀で?」
「ちゃうわもう。なんなん?」
「だって妃紗生さん強引なんだもん」
「こんなん強引のうちに入らんわ、いけずな子やね。自分かて楽しんどったやん」
僕に言い返す術はない。それはあれだけ至れり尽くせりで楽しめないほうがどうかしている。
それでも、やっぱり僕は妃紗生さんが苦手だ。
「強引ゆうのは今日の最初のモーツァルトみたいのを言うんや。一人でばっかりやってたらおかしなってまうよ」
「そんなにしてません」
「どんなよ。スケベ」
なんだかもうよくわからなくなってきた。ふと、妃紗生さんの口調が変わる。
「音楽も」
見返したら、真剣な瞳が待ち受けていた。
「一人でばっかり弾いてたら、見えるもんも見えなくなってまうよ」
「一人って……僕にはオケがあるよ。カルテットも」
「でもそれは、あゆちゃんと対等なん? 得るものはあるの? 与えるばっかりじゃ消耗するだけやよ」
「そんなこと。僕には必要なものだよ」
「あゆちゃんは将来オケで弾きたいの?」
「それは……」
「彬先生みたいにソロで弾きたいんと違うん?」
「……そうだけど」
僕だってわかってる。いくら英オケのレベルが高いと言ったって、それは高校の部活としてはの話だ。飯沢は指揮の専門家じゃない。五十嵐や紺野やしでちゃんは音楽の道に進もうとしているけれど、そうじゃないひとのほうが圧倒的に多い。セミプロである妃紗生さんと一緒に弾いたほうがずっとためになるのかも知れない。それでも、僕はあのオケでなにかが得られると思っている。先生からも妃紗生さんからも得られないなにかが。たとえ直接的に演奏の役に立つものでなくても、いずれきっと僕のためになるなにか。
「僕には必要なものだ」
だから僕はそう言う。妃紗生さんはじっとこちらを見つめて、それからふうと溜め息をついた。
「まあええわ。話はコンクールが終わってからでも。ああ、冷えてしもうたわ。あゆちゃんシャワー借りるね」
起き上がって腕を抱く。冷房の中裸で話していたらそれは冷える。僕も少し寒くなっていた。
「シャワー、二階の使っていいよ。廊下でて右」
「二つもお風呂あるのん? すごいなあ」
服をかき集めて妃紗生さんはシャワーを浴びに行った。タオルを出さなくてはいけない。僕もあとでシャワーを浴びるつもりで、とりあえず下着だけ替えて服を着直した。下へ降りたついでに放りっぱなしだった携帯を拾うと祖母から着信が入っている。まずい。メールもきていたので見るとやっぱり遅いらしい。返信しておいて、ピザのメニュを探してタオルと一緒にもって上がった。部屋に戻るとなんだか空気がこもっていて、冷房を切って窓を開けた。生温く湿った風が吹き込んで、少し憂鬱になった。
今日の最初のモーツァルトか。
カデンツァじゃ、一人でするのと同じなのかな。飯沢と喧嘩しながらオケで弾いても、文句ばかりつけながらカルテットをやっても、それはおかしな演奏なんだろうか。
妃紗生さんとソナタを弾いたら、もっと気持ちよくなれるんだろうか。
僕はあのオケで、なにを学ぶつもりなのだろう。
----
……で、三年前なにがあったのかって?
そこはご想像に。